『全国イノベーションコーディネータフォーラム2011,平成23年度イノベーションコーディネータ表彰・表彰式』を開催しました!
独立行政法人科学技術振興機構(JST)では,全国で産学官連携に従事するコーディネータのノウハウや考え方を共有し,スキルアップを図るとともに,優秀なコーディネータの育成方法等を論議することを目的としたフォーラムを様々な形で開催してきました。今年度は復興・再生を目指す仙台市を会場とし,これからのコーディネート活動の中でも特に震災復興に結びつく効果的な活動を議論することを目的としたフォーラムが,2011年11月1,2の両日,宮城県仙台市および石巻市で開催され,全国から300名を超える参加者が集まりました。
JSTイノベーションプラザ広島より,当日の開催概要についてご報告します。
<11月1日(火)>
主催者を代表して,中村道治JST理事長は,「東日本大震災からの復興と成長のために科学技術の活用が重要である。第4期科学技術基本計画では大震災を日本だけでなく世界的な課題と捉え,再生と持続的な成長のためにも科学技術イノベーションの重要性が謳われている。それには産学官の機関の協力,特にコーディネータの力が必要である。復興に結びつく効果的な活動のために本フォーラムが一助となることを願う。」と挨拶いたしました。
来賓者挨拶では,(社)東北経済連合会の高橋宏明会長から,早い復興の兆しもあるがまだまだこれからであるという被災地の現状と本フォーラムへの期待等が語られました。
○基調講演「科学技術政策にみるコーディネータの役割」
(文部科学省 科学技術・学術政策局 産業連携・地域支援課長 池田 貴城 氏)
基調講演は,「科学技術政策にみるコーディネータの役割」と題し,文部科学省の池田貴城課長から行われました。8月から開始された第4期科学技術基本計画,産学官連携施策15年と今後の課題が示され,産学官連携コーディネーターの取り組み強化の論点として「制度・組織を超えたつながり」「自治体との更なる連携強化」「次世代を担う多様な人材の育成」を挙げ,補助事業としてのリサーチアドミニストレーター(※)整備等が紹介され,コーディネーターへの期待として地域の産業振興ビジョンとも合致させた大学発地域イノベーションの担い手として「オープンな立場」で活躍できるリーダー的存在であること等が示されました。
(※)リサーチ・アドミニストレーターとは,大学等において,研究者とともに,研究活動の企画・マネージメント・成果活用促進を行う人材群のこと。大学等の研究開発マネジメント強化や科学技術人材のキャリアパスの多様化を目的とした文部科学省の平成23年度新規事業。
○特別講演「震災復興に求められるイノベーションと産学コーディネーション」
(スマートソーラーインターナショナル(株) 代表取締役社長 富田 孝司 氏)
特別講演は,「震災復興に求められるイノベーションと産学コーディネーション」と題し,震災前から宮城県に設立されている太陽光発電のベンチャー企業であるスマートソーラーインターナショナル(株)の富田社長から行われました。震災の経験を貴重な教訓とすること,政府支援だけに頼るのではなく復興を事業と捉えることが重要と提言され,大切なのは基本的な考え方(商品開発・目標ターゲット・重点投資・資本政策・マネージメントなど)の転換であり,実践途上であるその内容を紹介されました。また,市場ニーズの把握と技術シーズの確保の重要性に対し東北地方はシーズと人材に恵まれており,資金や技術の確保のためにも企業や人的な繋がりをフル動員することが重要であると強調されました。さらに,東北3県の復興へのリコメンデーション(提案)として復興債の発行や市場を自ら国内・世界へ展開させること等を掲げられ,最後にコーディネータに対してフォーチュンテラー・ゲームメーカーであってほしいと希望を述べられました。
○被災地域の企業・研究者の声
被災地域の企業の声として,創業204年の醸造業である(株)八木澤商店 河野通洋代表取締役社長は,震災後の地域の生命維持活動,生活基盤と雇用を守る活動から自社の経営再建に至るまでを熱く語られました。同じく被災地域の研究者の声として,宮城県産業技術総合センター 鈴木康夫所長から,震災を機に企業の価値観や人々の意識が変わったこと,公設試の使命を原点から再認識し,地元中小企業・起業家の支援,新事業の立ち上げと既存事業の復旧復興増進の重要性を確認したこと等が報告されました。
○パネルディスカッション「震災復興に活躍するコーディネータとは」
パネルディスカッションは,上記の河野氏,鈴木氏に加え,岩手大学 地域連携推進センター 佐藤利雄産学官連携コーディネーター,福島大学 研究推進機構本部
森本進治本部長特別補佐/産学官連携教授 産学官連携コーディネーター,熊本高等専門学校 地域イノベーションセンター 瀬戸英昭九州沖縄地区産学官連携コーディネーターの5名をパネリストに迎え、JSTイノベーションサテライト岩手
平山健一館長がモデレータを務め,「震災復興に活躍するコーディネータとは」と題して行われました。
論点として「復興再生のための雇用創出」「復興に求められるコーディネータの在り方」「産学官連携におけるネットワークの在り方」が掲げられ,各パネリストのプレゼン後,ディスカッションが行われました。質疑応答も活発に行われ,最後に全体のまとめとして「広域ネットワークの構築と活動拠点」「震災の貴重な体験談を次世代へ伝えること」「平均値ではなく被害の大小に合わせた現場ニーズに応える国策としての制度計画」の重要性が指摘されました。
○平成23年度イノベーションコーディネータ表彰・表彰式
最後に,平成23年度イノベーションコーディネータ表彰・表彰式が行われました(同表彰の受賞者の記事はJST「産学連携ジャーナル」2011年12月号で特集されています)。イノベーションコーディネータ大賞・文部科学大臣賞を受賞された東北大学大学院工学研究科 堀切川一男教授や,イノベーションコーディネータ賞・科学技術振興機構理事長賞を受賞された大阪府立大学 地域連携研究機構 シーズ育成オフィス 阿部敏郎 副オフィス長/産学官連携コーディネーターを始め,全12名の受賞者が受賞コメントを述べられました。
閉会挨拶は小原満穂JST理事が行い,引き続き行われた交流会は180余名が参加,盛会のうちに1日目を終了いたしました。
(左から,パネルディスカッション,受賞者スピーチの様子)
<11月2日(水)>
2日目は,石巻市及び仙台市の復興現場視察会が行われました。参加者は170余名,大型バス5台に分乗し高速道路も使って約2時間弱,各バス内にて車中プレゼンテーション(東北大学附属災害制御研究センター保田真理氏による「東北地方太平洋沖地震津波の発生メカニズム・被害の特長」他)が行われながら,仙台市から石巻市の石巻専修大学へ移動しました。同大学の周辺は震災当初の自衛隊本部が置かれた場所で,今も仮設住宅が数多く建ち並び,7カ月以上経つ現在においても生活の不便を強いられている方々が多くいらっしゃることを痛切に実感しました。
視察会の導入として石巻市の被災・復興状況についてのプレゼンテーションが行われ,石巻専修大学の坂田隆学長による挨拶及び石巻市の北村悦朗副市長による市の被害概況説明の後,石巻市産業部産業復興課
齋藤一夫課長から「復興計画ゾーニング等について 石巻の都市基盤復興に向けて」と題し,地区別の被災状況,直接被害と間接被害,過去の経験も重ねての防災上の課題,それらを踏まえた災害に強い街づくりの推進について,被災直後の多くの現場写真資料と共に説明が行われました。
午後から石巻市内及び石巻港をバスで巡る車窓からの視察が行われました。およそ2ヶ月前に現場を下見したフォーラムスタッフによると「この数カ月でだいぶよくなった…」とのことでしたが,旧北上川を越え石巻大橋を渡った後の湊(みなと)地区と呼ばれる区域に入った辺りから景色が一変していき,その光景に言葉を失いました。陥没による段差ができた道路,信号機のなくなった交差点,冠水し土色となった植物の残骸,累々と続く積み上げられた廃車の山,壁を失くし骨組みだけになった建物,陸に打ち上げられ傾いた船,住宅街に1件だけ残った家屋,陥没した岸壁沿いに佇む閑散とした水産物卸売市場,2階まで津波が襲った痕跡がはっきりと残る看護師さんの宿舎,そして視界のいたるところに広がる瓦礫の山々…車窓からの経験とはいえ,現状から元の光景を推し量ることは到底不可能であると思うほどの悲惨な状況を目の当たりにし,復旧復興再生という言葉の重みを歯がゆさや悔しさをもって実感しました。その後は仙台市の井土搬入場及び仮説焼却炉を視察して全行程を終え一同解散となりました。
今回のフォーラムが被災地で行われたことにより、関係者一同今後の復興への責務とコーディネータの役割を再確認し合うことができ、大変意義深いものとなりました。
(JSTイノベーションプラザ広島)