『第8回キャンパスベンチャーグランプリ全国大会』が開催されました!
平成24年3月8日(木),東海大学校友会館(東京・霞ヶ関)で,「第8回キャンパスベンチャーグランプリ全国大会」の審査会・表彰式が開催され,北海道・東北・東京・中部・大阪・中国・四国・九州の8地域を代表する14件の提案プランの中から,ビジネス・テクノロジー部門の各大賞,および特別賞が決定しました。
中国地域からは,鳥取大学の楊さん・三井さん・増田さんご提案の「アジア医療へ つながるいのち つなぐ3点」が見事特別賞『マイクロソフト賞』を受賞されました。また,惜しくも受賞はならなかったものの,徳山高専の黒田さん(「誰にも持っていかれない安心傘」)も,堂々としたプレゼン・質疑応答で健闘されました。
参加した中国地域産学官コラボレーションセンターより,各賞の受賞者(代表者)・プランについて,簡単にご紹介いたします。
特別賞「マイクロソフト賞」を受賞した楊さん・三井さん・増田さん
(左は,審査員&プレゼンターの日本マイクロソフト株式会社 渡辺 弘之 氏)
「安心傘」の試作品を手にプレゼンする黒田さん
○テクノロジー部門大賞(文部科学大臣賞)
慶応義塾大学大学院 竹 康弘さん
「ICタグを利用したタンブラー利用促進事業」
ペットボトルのリサイクル率は50%に過ぎず,残りの容器は全て廃棄されてしまいます。竹さんは,自分で洗って再利用できる飲料容器(タンブラー)を,いつでも,どこでも使える魅力的なものとすることで,この問題を解決できないかと考え,ICタグ内蔵のタンブラーを提案されました。ICタグには,持ち主それぞれの情報を登録・蓄積できるので,自動支払い(キャッシュレス)はもちろんのこと,好みに合わせてお得な飲物・クーポン情報を表示したり,砂糖やクリームの量も自動的に加減してくれます。また,削減したペットボトル数を見える化してモチベーションアップに繋げるなど,ユーザーに対して直接的/間接的な様々なサービスを提供することが可能になります。
竹さんは,既に今年1月にベンチャー企業を設立済みで,大手の飲料メーカー・自販機メーカー・IT企業と連携し,5月からは大学内に補給スポットを設置して,試験的にサービスを開始する予定です。また,審査会当日,東京ビックサイトのSONYブースで展示紹介されるなど,事業化に向けてかなり精力的に動き出しており,この点が高く評価されて,見事グランプリを受賞されました。
○ビジネス部門大賞(経済産業大臣賞)
大阪市立大学 川口 加奈さん
「ホームレスを生み出さない日本への変革のためのHUBchari事業」
川口さんは,周辺住民や観光客などがエリア内で自転車を共有するシェアサイクル事業を提案されました。シェアサイクル自体は特に目新しいものではありませんが,自転車のメンテナンスや受付業務などに積極的にホームレスを採用することで,大阪の2大問題である「放置自転車」と「ホームレス」を一挙に解決しようというのが本プランのポイントです。
既にNPO法人を設立しており,昨年の7月には,梅田ロフト付近で,自転車:12台・利用者:40名による実証実験も実施済みです。現在は1ヶ所で運営されていますが,この4月からは5ヶ所に拡大する計画があるなど,徐々に広がりを見せつつあります。この川口さんのずば抜けた実行力と,何より「ホームレスの人たちを助けたい!」「ホームレスを生み出す日本の構造を変えたい!」という熱い想いが,見事グランプリ受賞につながりました。
○特別賞「TDK賞」
中部大学 大俣 美佳さん
「居心地のよい最良の学級が作られる学校用学級編成システム」
小学校におけるいじめ・学級崩壊が社会問題化しており,同じクラスにしない方がよい児童の組み合わせが増加するなど,学級編成に要求される条件は厳しさを増す一方です。学級編成の作業は,児童の相性を考慮するだけでなく,成績・リーダーシップ・スポーツなどに優れる児童をバランスよく配置する必要があり,従来,複数の教員が手作業で行っているため,大変な時間と手間を要し,精神的にも負担が多いのが実状です。
大俣さんは,この編成作業にマルチエージェントシミュレータを利用し,これまで3〜5時間かかっていた作業をわずかな時間で実行できるシステムを提案されました。本システムは,シミュレータの開発元である(株)構造計画研究所と共同で特許出願中とのことです。学級編成だけでなく,様々な作業への応用が期待できるということで,TDK賞が授与されました。
○特別賞「マイクロソフト賞」
鳥取大学 楊 振楠さん
「アジア医療へ つながるいのち つなぐ3点」
受賞プランの概要については,「第10回CVG中国」表彰式のレポートをご参照下さい。
⇒コラボレーションセンター活動レポート
CVG中国の時の提案内容と比較して,参加医療機関が25機関に増え,メニューもより具体的で充実したものになっていました。また,プレゼンテーションも,短い発表時間(10分間)に合わせて視覚的効果を重視し,ポイントを絞った内容になっているだけでなく,アロマオイル入りのお絞りを審査員に配るなど,かなりレベルアップしていました。
今月中には,CVG中国の賞金も一部活用して,ベンチャー企業を立ち上げるそうです。今後一層のご活躍をお祈りしております。
○特別賞「MIT賞」
大阪大学 滝野 淳一さん
「GaN単結晶作製技術『OVPE法』の実用化 〜超高温育成が切り拓くGaN系デバイス新時代〜」
滝野さんからは,安価で高品質なGaN(窒化ガリウム)系デバイスを供給可能な新技術「OVPE法」の提案がありました。従来の手法とは異なる新しい反応系を発見したことで,装置を簡易化し,大量の基板を製造することが可能になったとのことです。このOPVE法の開発により,LEDデバイスを約10分の1のコストで製造できるようになり,例えば照明が全て安価なLEDに置き換えられると,61%もの電力消費量の削減が期待できるとのことです。
実用化に向けてのビジネスモデルとしては,技術・ノウハウを保有している滝野さんが中心となって,化学メーカー・電機メーカーとジョイントベンチャー(JAPAN Nitrid.LLC)を設立し,GaN系デバイスの製造・販売を行うことを計画しているそうです。このイノベーションが期待できる高い技術性が評価され,MIT賞が授与されました。
○審査員特別賞
早稲田大学 吉藤 健太朗
「孤独感というストレスを解決する福祉用コミュニケーションデバイス」
一人暮らしの高齢者や病気などで入院中の子供は,寂しさ・孤独感というストレスから生きがいが大きく低下してしまいます。吉藤さんは,そのストレスを解消するため,離れて暮らす家族・友人とのコミュニケーションが可能となるデバイスを提案されました。このデバイスは,最先端の人工知能・音声認識機能を搭載したロボットではなく,マイク・カメラ・スピーカーの付いた人形/ぬいぐるみのようなもので,高齢者や子供の”分身”として,家族・友人の自宅での生活や旅行・買い物などに付き添うことが可能です。モバイル端末等によるTV電話と大きく異なるのは,高齢者や子供が,誰に気兼ねすることなく自らカメラを操作して自由に視界を変更できること,そして,化粧をしてない顔や疲れた顔を家族・友人に見せなくてもすむということです。
本デバイスは,現在実証試験中ですが,世界10ヶ国以上でTV番組やWebで紹介され,国際ロボット展2011にも参加するなど,既に多くの注目を集めています。吉藤さん自らの入院・ボランティア体験に基づいた気配り溢れるこのプランは,テクノロジー・ビジネス部門の各大賞を受賞した2件と大変な接戦を繰り広げた結果,惜しくも受賞を逃し,審査員特別賞の受賞となったようです。
<所 感>
今回のCVG全国大会では,審査会の冒頭で審査委員長の一柳先生も述べられていたように,事業性・市場性に優れ,起業・事業化により近いプランが高い評価を受けるという結果になりました。また,審査会の質疑応答でも,「家族・友人など身近な人でもいいから,提案プランがモノになりそうか,市場ニーズをリサーチしてみましたか?」という質問が必ず出ていました。
各グランプリを受賞したプランは,アイデア自体は特に極めて画期的という訳ではなく,収益についても未知数という感は否めませんが,既に会社を設立済みで,大手企業や行政機関との連携を実現しているその若者らしい旺盛な行動力と,何よりもプランの実現に向けた溢れんばかりの情熱が,受賞のポイントになったと感じました。
事業性を最重視するという評価基準は,東京大会で採用されているとのことですが,地域によってその事情は様々だと思います。事業化については未知数のアイデア止まりの提案であっても,その新規性や将来の可能性,さらにはチャレンジ精神を評価する場があってもいいのではないかと感じました。
(中国経済連合会 桑原)