『バイオ・ジャパン2012』に参加してきました!
平成24年10月10日(水)〜12日(金),パシフィコ横浜において『バイオ・ジャパン2012』が開催されました。今回は,「アジア発オープンイノベーション新時代」のキャッチフレーズのもと,ライフ,グリーン,機能性食品,バイオクラスター&ベンチャーの4大テーマに関する研究成果・開発機器の展示やセミナーが行われ,3日間で延べ1万2千名あまりの来場者を集めるなど,大変盛会でした。中国経済連合会からも本イベントに参加し,10月11,12日の2日間,知財戦略ネットワーク,グリーンイノベーション,バイオマスリファイナリーなどのセミナー受講を中心に,関連の展示などを見て回りましたので,受講したセミナーの概要を中心にレポートします。
○国際競争力の源泉 〜グローバル知財人材の育成と確保
「国際競争力の源泉 〜グローバル知財人材の育成と確保」では,まず,文部科学省 科学技術・学術政策局 産業連携・地域支援課長 里見朋香氏から,「産学官連携の現状と今後の展開」とのテーマで講演がありました。講演では,これまでの産学官連携施策の経過を振り返り,大学における企業との共同研究実績,特許出願実績,特許実施など着実に成果は上がっていること,一方で,企業との共同研究の一件あたりの金額規模が小さいこと,特許実施料収入について一時金が主でランニングロイヤリティーが少ないこと,大学特許の利用率がやや低いことなど,今後の課題の指摘がありました。こうした課題を踏まえ,平成25年度概算要求では「日本再生を牽引するセンター・オブ・イノベーションの構築」事業を掲げているということです。この施策のポイントは既存分野・組織の壁を取り払うことでイノベーションの強化を図ろうとするところにあり,私たちの「新結合プラン」の方向性も同じところを目指していることから,私たちは今後も自信を持って現在の取り組みをしっかりと進めて行けば良いと思いました。
次に,第一三共株式会社 会長 庄田隆氏からは,「製薬産業におけるグローバル知財人材」というテーマで講演がありました。講演では,産学官ではそれぞれ知財人材の育成に取り組んでいるが,期待される知財人材は異なっており,それぞれの役割分担を踏まえた産学官連携が重要との指摘とともに,第一三共株式会社での知財人材育成の具体的な取り組みの紹介があり,参考になりました。
最後に,知的財産戦略ネットワーク株式会社 社長 秋元浩氏から,ライフサイエンス産業で必要とされる知財人材の育成や知財を中心としたコーポレート支援を行っている同社の事業の紹介がありました。
○グリーンイノベーションサミット
「グリーンイノベーションサミット」では,まず,公益財団法人 地球環境産業技術研究機構(RITE) 理事 湯川英明氏から,RITEにおけるバイオマスリファイナリーに関する研究開発成果の講演がありました。講演では,従来の非食料バイオマスからの燃料製造においては,6炭糖と5炭糖の混合糖を発酵させる酵素セルラーゼが高価格で,高コストの主因となっていたが,RITEが開発したRITE菌は混合糖の完全同時利用を可能とする,発酵阻害物質に対する高度の耐性を有するなどの特性を有しており,発酵プロセスのコストを大幅に低減できる可能性が見えてきたことが紹介されました。現在,RITEバイオプロセスの実用化に向けて,米国エネルギー省「再生可能エネルギー研究所」,本田技術研究所との共同研究が進んでいるということでした。
次に,株式会社IHI 社長 斎藤保氏からは,グリーンイノベーション関連の取り組みとして,藻類バイオ燃料の開発ではボツリオコッカスの一種である榎本藻を利用して非常に効率よく生産できる技術の開発を推進していること,木質バイオマスのガス化炉の開発では,2塔式ガス化炉の技術を確立してすでに市場で高い評価を得ていること,海流発電では,NEDOのプロジェクトで東京大学,東芝,三井物産と海中浮遊式発電の共同研究を進めており,1基の出力が2MWで大きさが100m×40mの発電機を400基組み合わせて発電するモデルで研究を進めているということが,紹介されました。更に,バイオ関連の新規事業としてバイオベンチャーのUMNファーマと合弁で潟ニジェンを設立して,アステラス製薬との共同研究を行い,鶏卵の替わりに昆虫細胞を使用するインフルエンザワクチンの開発に成功し,製造を開始していることも紹介されました。
次に,住友ゴム工業株式会社 常務執行役員 中瀬古広三郎氏からは,同社の転がり抵抗を下げることで低燃費を実現する低燃費タイヤの技術,および石油系材料の大部分を石油外天然資源に代替させた石油外天然資源タイヤの技術について紹介がありました。低燃費タイヤについては,スプリング8や地球シミュレーターを使用して,タイヤ材料中のシリカの3次元配置をナノレベルで可視化・最適化することにより発熱を抑制して転がり抵抗を下げることに成功したということで,タイヤがこのようなハイテク技術に支えられていることに改めて驚きました。石油外天然資源タイヤについては,天然ゴムの主鎖にエポキシ基を付加する改質天然ゴム製造技術の開発に成功し,既に石油系材料の97%を石油外天然資源に代替していることから,2013年には100%代替することを目指しているということでした。
最後に,本田技研工業株式会社 経営企画部環境安全企画室 室長 篠原道雄氏からは,RITEおよび米国エネルギー省「再生可能エネルギー研究所」との共同研究で取り組んでいるバイオエタノール製造を中心に同社のグリーンテクノロジー全般の取り組みについて紹介がありました。
○バイオマスリファイナリーの新展開
「バイオマスリファイナリーの新展開」では,神戸大学,理化学研究所,産業技術総合研究所という,バイオマスリファイナリー分野でそれぞれに特徴のある研究開発を行っている3つの機関の取り組みについて紹介がありました。
まず,神戸大学工学部 統合バイオマスリファイナリーセンター長 近藤昭彦氏から,同センターでは産業技術総合研究所,慶応大学と共同で,スーパー微生物を設計・利用して,糖化・発酵という従来は2段階で進めるためにエネルギーを多く消費して高コストであったプロセスを,糖化と発酵を一気に行うことで低コスト化を狙う革新的一貫バイオプロセスについて取り組んでいることの紹介がありました。
次に,理化学研究所 バイオマス工学研究プログラム プログラムディレクター 篠崎一雄氏からは,同研究所では2010年から10年計画でバイオマスプロセスの抜本的な効率化に向けてバイオマス工学研究プログラムを推進していることの紹介がありました。同研究所の技術の特徴は,バイオテクノロジーを活用した,高生産性・易分解性を備えたスーパー植物の開発や効率的な一気通貫合成技術の開発を目指している点にあるということで,東京大学,北海道大学,神戸大学,王子製紙などと共同研究を推進しているそうです。
また,産業技術総合研究所バイオマスリファイナリー研究センター 研究センター長 平田悟史氏からは,同センターでは,従来はバイオマス燃料製造に重点を置いてきたのに対して,今年度から組織・体制を刷新してケミカル原料,高性能複合材料(マテリアル)開発に特に力を入れつつ,従来から取り組んできた液体燃料製造技術の開発にも引き続き行っていくということが紹介されました。
最後に,経済産業省 製造産業局 化学課 機能性化学品室長 山崎知巳氏から,バイオマスリファイナリー分野の研究開発支援に関する経済産業省の施策の方向性について講演がありました。人工光合成プロジェクト,バイオマス利用プロジェクトを推進するとともに,新化学技術推進協会(JACI)の技術部会での検討も踏まえながら,非可食性バイオマスから付加価値の高い化学品を製造する技術を確立・知財化することを強力に支援していくということでした。
○展示会場
展示会場での展示では,産業技術総合研究所やNEDOのグリーンイノベーション関係の開発成果に関するものが大変興味深く感じました。また,当地域からは広島大学,岡山大学が創薬・医療機器開発関連の多様な取り組みを紹介する展示ブースを設けて,多くの来場者を集めていたことが印象に残りました。その他,私は同時刻に他のセミナーに参加していたために聴講できませんでしたが,広島大学発ベンチャーの株式会社ツーセル,株式会社広島バイオメディカルもプロモーション講演を行っておられたようでした。
今回,初めて「バイオ・ジャパン」に参加しましたが,わが国の今後の成長戦略の核となるグリーンイノベーション,ライフイノベーションを中心テーマとするイベントということで,参加企業の数も多く,産学の関係者の熱気を直に感じることができ,また,興味深い内容の講演をいくつも聴講できたということで,大変有意義であったと感じました。皆さまも来年ご都合がつくようであれば是非参加されてみてはいかがでしょうか。
(中国経済連合会 小泉)